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POSTED Wednesday, November 10, 2010 15:19

エジプト旅行記③ 10月26日 後編

13時にピザハットの前でジャンレノにピックアップされた後は、ジェゼル王の階段ピラミッドをサッカーラに訪ねて、一路古王国時代の王都メンフィスへ。現在のミト・ラヒーナ村にある、メンフィス博物館のラムセス2世の巨像を見るためだ。

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階段ピラミッドは最古のピラミッド。マスタバ墓を積み上げるように増築され、この形になった。

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ミト・ラヒーナ村の様子。ジャンはここをメンフィスと呼んでいた。

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ラムセス2世の巨像。なんか前ラジオに誕生日が一緒とかいうメールが来てなかったっけ?会いたかったぜラムセス。

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博物館のバルコニーから見た植物。爆発する生命力に心奪われる。

博物館を出てジャンレノの待つタクシーへと戻ると、あれ?乗ってないな。てか窓も開けっ放し、鍵もつけっぱなしかよ。きょろきょろと辺りを見回すと、民家の軒先、背の高い木がまばらに生えているその木陰に、木製のカフェテーブルのようなものを囲むようにして、5人ほどのエジプト人がおのおのシーシャを吸ったり紅茶を飲んだりしている。ムスリムらしい服装をした初老の紳士や、洋服に眼鏡をかけた若者に混じって、ジャンも悠々とくつろいでいるではないか。ああ、そういえばメンフィスに住んでるって言ってたもんな。ここは友達の家かなんかなのかな。すたすたとそのテーブルに向かい、空いている椅子に腰かけると、初老の紳士がシーシャを吹かしながら、紅茶をすすめてくれた。

おじいさん「紅茶にはウィスキーを入れるかい?」
「あれ?ウィスキーなんてあるの?」
エジプトではアルコールを半ば諦めないとダメだなと思ってたから、なんか唐突に嬉しい。

おじいさん「入れるのか。入れないのか。」
「ああ、できれば入れてください。多めに。」
ジャン「あんまりゆっくりしてられないぞ。この後もう一カ所回るんだ。」
「うん、でも赤のピラミッドはもういいんだ。ここでしばらくのんびりして、今日はこれで帰ろうよ。」
おじいさん「そうじゃそうじゃ。そうするがいい。リラックスは大事じゃぞ。」
ジャン「そうするか?まあ、お前の旅だからな。わかったよ。」

そうしてしばらく、テーブルに落ちる広葉樹の影や、濃い緑の葉の間にきらめく陽光を眺めていると、旅の疲れが消えて行くのを感じる。ふと訪れるこういう瞬間がたまんねえんだよなあ、なんつって、暖かい紅茶がそれはそれは美味しく感じるのだった。その後は無遠慮にもおかわりなんぞをもらいながら、シーシャも回って来て、ゆったりとくつろぐことができた。英語が堪能なエジプシャン達との会話はけっこう盛り上がって、その中で交わされた会話にとても心に残っている場面がある。

眼鏡君「お前いいやつだな。」
「そんなことないよ。努力はしたいけど。」
おじいさん「いや、そんな努力をしてはいかん。いいか、お前はただお前でいればいい。そもそもお前には、何かを誰かに証明する義務などないのだ。」
「?」
おじいさん「他の誰かに何かを証明しようとする。そこからお前はお前ではなくなり、物事がおかしくなりはじめるのだ。」
おおっ!!確かにその通りだ。旅ってすげえなあ。この一言、この先も忘れないでいたいなあ。なんて感動してて、おじいさんの口からついにその一言が出てくるまで、しっかりと型にはめられてることには全く気付かなかった。

おじいさん「さて、ところでな、旅の人。うちはパピルス工場をやっとるんだがな。どうじゃ。ちょっと見学していかんか?」

(あれ?ここ土産物屋っすか?)

そうなのだ。ジャンとこのパピルス屋とはバーター仲間で、博物館の帰りの旅行者を、頼んでもいないのに連れて来る事になっていたのだ。ツアー客なんかもバスでいきなり土産物屋に連れて行かれたりするあれだ。わー!気付けよー俺!こんなのぜったいワケありに決まってるじゃないか!先に言えよジャン!って、言う訳ねえもんなあああ。しかし上手いなこりゃ!

なんて頭では思いつつも、心はこの素晴らしい時間にとても満足していたので、最初から、パピルスを一つ買うつもりで建物に入った。最後いきなり仕事モードに持ってかれて面食らったが、それまでの会話の全てが作戦という訳でもなかろう。どうせ一葉になにかエジプトの匂いを買って帰りたかったからちょうどいいや。頼んでもいないパピルスの作り方を一通り実演された後で、荷物にならない大きさで、一番目を引いたものを手に取った。レジ係の眼鏡君にお金を払って、さかんにもっと大きいのをすすめるじっちゃんを尻目に、さあカイロへ戻るぞ、ジャン。


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ルネッサンス記の先人たちが確立した透視図法を粉砕するような前衛性に、やつも溜飲を下げることだろう。

ちなみにカイロの街へ戻る途中、ジャンとの会話は全て婚前交渉についてに終止した。




そしてカイロの街へ。その後はナイル側に沈む夕陽をぼけーっと眺めて、あ、そうだ、明日は砂漠へ行こう。カイロはもういいや。きっと夜は寒いだろうからな。なんか長袖をもう一枚買っとこう。なんて思って街をうろついているうちに完全な迷子になりました(泣)。うーん。どこだここは。

半泣きで地図を見ながら何度も同じ道を行ったり来たりして、スーツ姿のおやっさんに道を教えてもらってようやく地下鉄の駅を発見したときには、もう足のマメがつぶれそうになっていた。いや、初日で潰れたら困るぞ。ここからは地下鉄に乗って帰ろう。タハリール広場のあるサッダート駅までは1ポンド。地元民でごった返すメトロに揺られながら、1日でこんなに歩いたのはいつぶりだろう、とひとりニヤニヤする。


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ナイル川対岸に沈み行く夕陽。

宿でシャワーを浴びると、約束どおりその気になったのでソニーの経営するユースホステルへ出向き、結局白砂漠一泊キャンプツアーの他に、アブシンベル神殿行きの航空券とバスチケット、さらにそこからルクソール行きの電車のチケットを確保してもらうことになった。ソニーの仕事は早い上に正確だ。そのうえユーモアのセンスもある。この男が唯一持っていないものは、柏倉隆史のような渋いヒゲぐらいだなと思いながら、お礼にカイロの最後の夜をこのホステルで予約して、ウィリーとご飯を食べに行った。

ウィリーとの食事中に、長いこと考えてた疑問に対して、あっさりと答えが出てしまった。ニーチェやフロイトやユングを読んでもダメだったのに。この時はもう、旅の目的を全部果たしちゃったような気分だった。いつからか気になっていたピラミッドは観れたし、この旅中で見つかるといいなと思っていた答えもわかったし。あとはオマケみたいなもんだな。思いっきり楽しんでこよう!

ようやくビールを辞めることが出来たんだ、と話すウィリーの前で2本目のビールを頼む気にはなれずに、明日も朝早いからと1時すぎには宿に戻ったのだが、この時はまだ何もわかっていなかった。翌日の夕暮れに辿り着くことになる、白砂漠から本当の旅は始まるのだった。(続く)


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宿の階段の主。すんません、通してもらっていいすか。

POSTED Saturday, November 6, 2010 21:04

エジプト旅行記② 10月26日 前編

ここ数日あんまり寝れてないこともあって、どっぷりと惰眠を貪っていた早朝、たぶん午前4時ごろ。イスラムの祈りが街中に響き渡る。モスクからの放送なのか、それとも街頭にくくりつけられたスピーカーから流されているのか、ついぞこの旅では明らかにならなかったが、ものすごい音量だ。まだ真っ暗な街中に響くイスラームの祈り。ぼやけた頭でそれを聞いていると、現実と夢の境界線が溶けてなくなっていく。まるで夢の中で目覚めたような、ずいぶんと不思議な感覚だった。遠くへ来たんだなあと思いながら、ふたたび眠りに落ちる。

iPhoneのデフォルトのアラームはまるでホワイトベースの緊急戦闘配備警報のようで、この部屋で鳴るにはちょっと問題があるような気がした。飛び起きて逃げ出す人がいるんじゃないかと思ったけど、みんなぐーすか寝てた。すっかり東京の自宅気分で起きたもんだから、えーと?あ、エジプトに着いたんだ。そっかそっか。今日はギザのピラミッドを観に行くんだった。と、急に旅に放り込まれる。


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26日朝、ユースホステルのバルコニーから見たカイロの街。

ダッシュで朝食をかき込んで、午前8時半、ドライバーの到着とともに出発。

渋滞した市内を40分ほどで抜けて郊外へ向かうタクシーが、フリーウェイを走行中にふと、無言で減速して路肩に寄せていく。おや?さては車ぶっ壊れたな。。ん?でもとろとろと走ってるな。一体、と思って右を向いたその時、視界に飛び込んできたのはカイロの高層建築の向こうに、砂塵に霞んではいるがはっきりと浮かぶギザの3大ピラミッド。「でっけえええええええ!あんなにでっけえの!?」思わず大声が出た。オヤジ、やるじゃねえか。無言で減速か。渋い。渋すぎる。

ていう思いは帰る頃には「ああ、喋んのめんどくさかったんだな」っていう確信に変わるのだが。

ピラミッドエリアの正面入り口、チケット売り場の前でタクシーを降りる。「1時にピザハットの前な」と言い残し走り去るエジプト版ジャンレノ。視界にはずっとピラミッドが見えている。なんじゃああこりゃああ。あの、チケットください。はい、入場チケットす。あ、こっから入るのね。うんうん。改札を抜けて、と。うんうん。あれがクフ王のピラミッドね。でっけえなあー。え?いやいや、いいよ俺歩くの好きだから。らくだはいい。別に。うん。馬もいいや。

「てか、あんた誰?」
いつの間にか俺の専属ガイドぶったエジプト人に向かって言ってみた。
専属ガイド「いや(汗)、俺はここのガイドなんだ。旅行者が快適にピラミッドを観れて、キャメルライダーやホースライダーや物売りに騙されたり、危ない目にあうのを防ぐのが仕事さ。遺跡もしっかり解説してやるよ。さあ、行こうぜフレンド。」
「ほほう。で、1日の終わりにいくら取られるの?」
専属ガイド「(ちょっと面食らって)う、そ、そうだなあ。それはけっこう、まちまちっていうか、お前次第ってとこかな。」
「いらないや。歩いていくね。」
専属ガイド「ちょ、ちょっと待て!そうだなあ。えーと、ヨーロッパ人なんかだと100ドルぐらいくれたりもするし、えーと、200ポンドとかのときもあるし。。」
「じゃあねー。」
歩き去る背中には、一人では危険だとか、俺は日本人が好きなのに、とか聞こえてくるが、タハリール広場で俺に「ヘーイ、日本人か?日本人ってのはほんとナンバーワンだよな」と言って話しかけて来た男が、2分後には別のフランス人に「フランスはほんとナンバーワンだ。俺はフランス人が一番好きだ」と言ってるのを聞いていたので、お仕事お疲れ様です!という思いでいっぱいのまま、一番手前、愛しのスフィンクスに向かって歩き続けた。


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これがメインゲート。左の小屋がチケット売り場と改札。俺の立ってる真後ろに、ピザハットとKFCがある。

ちなみに、エジプトの人たちはほんとに正直でストレート。めっちゃ人なつこくて優しい。俺は大好きになったよ。旅行者からお金を稼ぐのは単にこの人たちの仕事。それさえ理解してれば腹立つことなんてほどんどない。普通の人たちからたくさんの、無償の優しさを受け取ったし、旅行者相手のビジネスをしてるひとも、いったんお金のことから離れると本当にいい人が多い。


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メインゲートを抜けると待ち受けるのは、ギザのピラミッド群。

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正面から見たピラミッドコンプレックス。

スフィンクス、クフ王、カフラー王、メンカウラー王のピラミッド。外観を見てるだけでもうため息が出る。本物に出会ったときに生まれる、感動がある。だいたい外からは見て回ったので、今度は中に入ってみよう。クフ王のピラミッド内部へ入るには、午前8時のチケット発売前に並ばなければいけない。これには間に合わなかったので、終日入ることができるカフラー王のピラミッドに入ろう!と思い長い長い列に並ぶ。30分ほどでチケットゲートに辿り着き、入り口の石の上にどっかりと座り込んでいるもぎりのおっちゃんに聞いてみる。

「チケットてここで買えんの?」
もぎり「ここにはない。メインエントランスまで戻って買え。」
とのこと。うわちゃー。まじっすか。そんな気もしてたんだけど、さっき誰かここで現金数えてたから、買えるのかと思ったよー。しょうがねえ、とメインゲートまでひーこら戻る。朝一で専属ガイドと別れた場所だ。ゲートの人に後ろから話しかける。
「2ndピラミッドの中に入るチケット売ってくれませんか?」
改札の人「それはピラミッドの横で売ってるよ!」

んんん?これはどいつが面倒くさがってやがるんだ?
「え、入り口では売ってなかったよ?」と言うと
改札の人「いや、ピラミッドの横だ!横で売ってる!」
と言い張るので、ああ、もしかしたらあのとき周りをもっとよく見ればチケット売り場あったのかなと思い、しかたなく今来た道をまたカフラー王のピラミッドまで戻る。もう3回目だぜここ歩くの。(今思えば、ここで徹底的にごねてチケットを確保するのが正解なんだけど、このときはまだエジプトのやり方がよく分かってなかった。)

「ねえ、チケットどこで売ってんのよ」
さっきのチケットもぎりじいさんに聞いてみる。
もぎり「外。外に売っている。」
と今度はメインゲートではない方を指さしているので、そっちの方へ今度は行ってみる。こうなったら俺は絶対にカフラー王のピラミッドの中へ入ってやるからな。いいか、何があろうとだ。なんだかいらん炎が心の中に立ち上るのを覚える。


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クフ王のピラミッド。とにかくでけえ!

カラシニコフで武装した警官数人に道を訊ねながら歩いていると、どうやらクフ王のピラミッドのさらに向こう側に、チケット売り場があるらしい。しこたま歩いて見えて来たのは、正面よりだいぶ小ぶりな駐車場と、改札&チケット売り場。なんだよ。結局入場時に買っとかないとだめだったんじゃないか。メインゲートの奴は俺を一回外に出すのがめんどくさかったんだな。よし、あの警備員と交渉してみよう。

「あのさ、ピラミッドのチケットを買わないで入っちゃったんだけどさ、やっぱり中見たくなっちゃったんだ。外へ出てチケット買って来ていい?」
「ああ、いいよいいよ。」
「言っとくけどもっかいエントランスチケットは買わないよ。それでも入れてくれる?」
「大丈夫大丈夫。俺が証人になってやるから。」
その言葉を受けて、ゲートの外へ出てカフラーピラミッドのチケットを購入。やっっっっと買えたー(泣)!なんて喜びながらゲートを再度通過しようとすると、目の前によく分からない地元の連中が立ちはだかった。
ジモティ「お前、入場チケットを見せろ!」
おお、意外と荒いなここは。こりゃあ立ち止まんない方がいいぞと思って強行突破しようとすると、二人組の男が両側から立ちはだかり、胸の辺りを平手で押しとどめて来た。
ジモティ「止まれ!おい!いいからまず止まれ!」
けっこうな剣幕に、思わず立ち止まってしまった。視界のはしっこにはすぐそこまで俺を迎えて来ていたさっきの警備員が、スタスタと戻って行くのが見える。
「なんだよ。俺はあのセキュリティと話をつけてあるぜ。」
そう言って、戻っていったセキュリティを指差すと、やつはまるでそしらぬ顔をして、若干ばつが悪そうにだが、そっぽを向いている。まあな。そうだろうな。
ジモティ「そんなわけないだろう。俺はここのキャプテンだ。チケットを見せろ」
「キャプテンってなんだよ。エントランスチケットはちゃんと持ってるぜ。絶対もう一枚は買わないからな。」
ジモティ「見せてみろ。」
しぶしぶチケットを手渡すと、ジモティは胸のポケットからメモ帳を取り出し、そこに書いてあるアラビア数字と、俺のチケット番号を照合するようなフリをしている。くっそ、こんな茶番に付き合ってる暇はねえ。そう思ってそいつの手から乱暴にチケットを取り返すと、
「いいか、これは俺のチケットだ。お前ら盗む気か?もう一度言うが、俺はあのセキュリティと話をつけてから出て来てる。今からここを通るが、絶対に俺の体に触れるなよ。いいか?通るからな。」
そう言ってすたすた歩くと、無事にゲートを通過することができた。いやー、ほんとにお仕事お疲れさまだよまったく!

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ピラミッドサイトから振り返ったカイロの街。

その後しばらくは血圧あがったままだったけど、カフラー王のピラミッド内部へとつづく列に再び並んだ頃には、すっかりといい旅気分に戻っていた。最初みたときよりずいぶんと短くなっていたその列は5分ほどで自分の番になり、腰を落として背中を90度近く曲げないと通れない階段が下へと続いている。今そこから戻って来たばかりの推定アメリカ人がようやく伸ばせた腰をとんとんと叩きながら、
「まったく、日本人にでもならなきゃこんな狭いとこ通れんぜ!」
なんて言うもんだから
「なんだって(笑)?」と言うと
「おお!お前日本人か!わっはっは!」と
その辺にいた人がみんな笑ってた。いいなあ。こういうの。

V字型の階段を降りている時も、登っている時も、狭い回廊の中に響き渡るのは戻ってくる人たちの愚痴だ。
「拷問だ!これは拷問だ!」
「短い!10メートルもないなんて!」
「○○!そこにいるかい?」
「他にどこにいけるって言うのよ!」
「拷問だ!これは全く拷問だ!」
けっこう苦労して入ったんだけどなあ(笑)、なんて思いながら進むと、実際その奥の回廊はとても短くて、目を引くようなものはなにもなかったけど、俺には、今ピラミッドの内部にいるんだと思うだけでとてもとても満足だった。(続く)


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子供たち。カメラを向けるとすごい嬉しそうにする。でもやっぱりカイロっ子。服装も表情も都会的だ。

POSTED Saturday, November 6, 2010 01:43

エジプト旅行記① 10月22日〜25日

川のほとりにある小さな民家に招き入れられ、現地の少年と、その母親とおぼしき人と一緒に、ベトナムのフォーのような麺を食べている。ああ、どうやら今俺はラオスにきてるんだな。庭では修学旅行生のような一団が、なにをするでもなく大小さまざまなグループで楽しそうに喋っている。のどかだな。でも、なんか物足りなくもあるな。

なんていう夢から覚めた10月22日。昼から渋谷の書店を回る。今回の一人旅の行く先を、どうにもラオスとエジプトで決めかねていたので、地球の歩き方を両方買って来て、見比べて決めようと思ったのだ。ところが、4件回っても、全ての店に「地球の歩き方・ラオス編」があったのに対して、エジプト編は見つけることが出来なかった。変な話、一人バックパッカーは、地球の歩き方がないとどうにもならない。現地で安宿を見つけるにも、踏み越えてはいけない文化的、もしくは治安的一線がどの辺りに引かれているのかを知るにも、とても重要な手がかりとなるし、そしてなにより、未知なる世界に一人で足を踏み入れる旅人の心をふっと軽くしてくれる不思議なタッチの文章が、とても心強い。るるぶ、ではダメなのだ。

うーん。。今朝の夢の事もあるし、これはラオスに行け、ってことなのかなあ?一昨年イギリス行ったときも、空港で歩き方・イギリス編が見つからなくてテンパったからなあ。北西親子に出会ったような奇跡は、そうそう期待できまい。うん、夢の意味は分からないけど、今回はラオスに行こう。きーめた。そう思いながら航空券を探すと、出て来たのはラオス往復ビジネスクラス20万円。出発3日前だったこともあって、エコノミーの座席はなかった。これに対して、もしやと思い調べたエジプト往復、直行便エコノミークラスで9万4千円。はい、エジプトに決定!地球の歩き方?なんとかなるっしょー!あっはっは!:-)

翌23日は熊本ロンナイに参加させてもらてもらいました。泥酔してラーメン食って撃沈。

24日夕方に東京の自宅にてパッキング。パジャマに着てるTシャツのうち、そろそろ捨ててもいいかなあと思うようなものを数枚と下着を数枚。靴下や本、携帯の充電器やらを入れて、最後に、一枚だけ奮発して買ったグッチのTシャツをなんとなく忍ばせる。

25日。出発。カーキ色のカーゴパンツにTシャツ姿、上着をスピットファイアのバックパックにくくりつけて、カンゴールの旅帽子を被ると、やあやあ、旅人らしく見えるじゃないか。コンセント変換プラグとダイアル式ワイヤロックを購入して、現金とクレジットカードを一撃で全部盗まれないように分散して、空港内の書店へ。頼むぞおおお。祈るようにして旅のコーナーへ行くと、あった!ありました!地球の歩き方・エジプト編!っしゃああああ!勝った!もらったぜ!そんなテンションでエジプト航空の機体に搭乗しました。

この瞬間。毎回そうなんだけど、「お、いよいよ一人っきりだなあ」と強く感じる。この瞬間から、自分の心の声が、やけにはっきりと聞こえるようになる。へっへっへ、いっちょよろしくなー。14時間半のフライトは、アラビア数字を覚えたり(英数字はあんまり見かけない。バスの番号や電車の座席、メニューの値段や車のナンバープレートなんかも全てアラビア数字で書かれてるから、読めないととても旅にはならないのだ。)、ぼんやりと旅のルートを考えつつ歩き方を読んだり、寝たり、アイアンマン2を観たりしてるうちに終わりました。うーん。ダハブ行きたいなあ。

ダハブはバックパッカーの集まる小さな街で、世界一美しい紅海のリゾート地。ダイビングやスノーケリングが楽しめて、のんびりと頭をからっぽに出来そうだった。ただ日本人パッカーが多いところはあまり行きたくないのと、ビーチリゾートでゆっくりするだけならなにもエジプトまで来る事もあるまいっていう思いもあって、うーん。カイロからシェルム・イッシェーフまで飛んで、さらにそこからバスで数時間かあ。往復で2日使っちゃうなあ。無理かなあ。ま、どうせ気分でころころ変わるんだ。これは未定のままでいっかーなんて考えてると、飛行機の窓からはカイロの街が見えて来た。なんだ?これ?

エジプト、カイロ空港に到着。いままでに見た事のない街なのは上空から見た街の灯りだけでも十分に分かった。なんて言っていいかわからないけど、ああ、これは知らないぞ、と心がわくわくする感じ。もう夜の10時近い。まいったなあ。宿見つかるかな。バゲッジを受け取って、第3ターミナルから第1ターミナルへ連絡バスで移動。第1ターミナルの近くから市内行きバスが出てる、と歩き方に書いてあったからだ。ところが、地図を見てバス乗り場を目指すもいっこうにそれっぽいところはない。おっかしいなあ。あ、あそこ大きなバスがいっぱい停まってるぞ。

「市内行きのバス乗り場がこの辺にあるって聞いたんだけど、ここですか?」
運転手さん「いや、ここじゃない。」
「どこだか知ってますか?」
運転手さん「わからない。」
あ、このひとあんま英語喋れないんだ。
「市内。バス。どこ?」
運転手さん「あ、あれバス!市内!」
そういって彼が指差す方を向くと、緑色のローカルバスが走りすぎようとしている。
運転手さん「行け!行け!」
「ショクラン(ありがとう)!」
あのバスに走って追いついて乗れってことか??無茶言うな!でも振り返っても「行け!行け!」ってやってるしなあ。一応走るけど、、いや、これ絶対無理だよ。もう200メートルは離れてるしぐんぐん加速してるじゃん!うー、ここで待ってれば次のが来るかな。

なんて思った瞬間、流しのタクシーが後ろからクラクションを鳴らしてきたので、走るのをやめて、呼吸を整えてから言った。
「タフリール広場までいくらで行ける?」
運転席側の窓から歩き方についてる地図を見せた。
タクシードライバー「タハリール?」
「そう!タハリール!いくら?」
ドライバーは無言で指を3本立てる。
「3?30ポンドってこと?」
タクシードライバー「フォーティー。」
どっちやねん!4と3の間でしばらく行ったり来たりしながら、40ポンドで交渉成立。後になれば分かるけど、これはとても安い。この運転手さんは英語が全くできないので、静かな車内を満たすエジプシャンポップミュージックを聞きながら、タクシーは市内へ。

ちなみにエジプトでは、ほとんど全てのものには決まった値段がない。「いくら?」と聞くとこちらの服装やら態度やらを見て「うーん、そうだなあ、○○ポンド!」といった具合だ。旅行者価格はもちろんエジプト人価格より遥かに高いが、日本人プライスはさらにその上を行く。後々出てくるエピソードだけど、ルクソールで最初500ポンドだった壺は、本当にいらなかったから歩き去る俺の背中でどんどんその値段を下げ、駐車場へ抜けるころには50ポンドになっていた。「50ポンドでいいよー!」と叫ぶその声は、それがその壺の本当の値段であることを告げていた。

日本の高速道路でよくみるような、ぐるっと360度回ってちょうど一層下へ降りるような立体交差のあるあたりで車が停まった。
タクシードライバー「タハリール!そこ!」
「ここタハリールスクエアなの?そうは見えないけど」
タクシードライバー「すぐそこだから!大丈夫!」
「ふーん。じゃあ、約束どおり40ポンドね!ショクラン!」

見知らぬ街で最初にタクシーを降りると、東西南北が分からない。そして今自分がいる位置も正確にはわからないから、なにかランドマーク的なものを見つけるまでは、実は地図は役に立たない。最初の一歩が宿へ近づく道でありますように、と願いながら歩きはじめた。

その後は道行く人に数回、そしてまだ開いていたツアー業者の受付にいた人に数回道をたずねて、なんとか狙っていたユースホステルに到着。シングルルームは空いてなくて、ドミトリーなら一泊30ポンド。よかったー。とりあえず2泊分を払って、部屋に案内される。韓国人のリー、日本人の鈴木君、ドイツ系イギリス人のエディとの相部屋。5人部屋だからまだベッドは一つ空いている。わりときれいでエアコンはなし。トイレはペーパーを流せないのでゴミ箱に捨てる以外は日本と変わらない。シャワーはちょろちょろだったけどお湯が出る。カンボジアは水だった。受付の男の子の愛想のなさが、旅に来たなあって実感を強くする。これこれ。この感じ。へっへっへ。

荷物をほどいて、ひとまず腹ごしらえだと外に出てプラプラしていると、「ジャパニーズ?」と声をかけてくるエジプト人がいた。
エジプト人「こんなとこで何してるんだ?」
「いや、今着いたとこなんだけど腹減っちゃってさ。なんか食べようと思って。」
エジプト人「ほんとうか?俺も今ちょうど暇なんだ。案内してやるから着いて来いよ。」
「うん。いいよ。コシャリが食べたい。」
コシャリとはエジプトの庶民の味。細かく切ったパスタや米やちぎった麺なんかの上に、トマトソースをどばっとかけて、ガシャガシャにかき混ぜて食べる。安くて、お腹いっぱいになるのだ。
エジプト人「カイロで一番美味いコシャリがすぐそこにあるぜ。」
あまり海外になじみのない人には分からないかも知れないが、日本人旅行者ってのはお人好しでお金持ち。簡単に騙される上に闘わないことが多いから、こんなのは王道のパターンだ。実際この旅行中アホほど話かけられるが、9割以上お金目当てだった。それもこれも本当によく思いつくよなあと関心するようなトリックで騙される。あ、騙された、って気付くのは大抵お金を払ってしばらくしてからだ。

「あのさ、こんな風にひょこひょこついてってるなんて我ながらウケるけどさ、なんか、もしあんたが悪い人だったとしたらこの国で悪い人を見抜くのは至難の業だと思うんだよね」
エジプト人「何言ってんだよ。この国で悪いやつらは本当に上手だよ。たぶん見抜けないって。」
「あ、そうなんだ。ガイドブックには広場で声をかけてくるような奴は100%下心ありだから気をつけろ。大抵のトラブルは声をかけられてついていくところから始まる、って書いてあるよ。」
エジプト人「ふーん。そうなんだ。ま、でも確かにそうかもねえ。」
なんて喋りながら、コシャリを二人分買って、エジプシャンカフェに持ち来んで食べた後は、砂糖をどっさり入れた紅茶を飲みながらシーシャを吸いました。ときに、彼の名前はウィなんとかなんとかというアラブ名で、俺がなかなか覚えられないでいると、「みんなはウィリーって呼んでるよ」と教えてくれた。英語が堪能で聡明なこのウィリーに出会う事が、この旅の大きな目的だったことは、後になって分かる。

ウィリー「明日はどうするんだ?」
「ピラミッド見てくるよ。プライベートドライバー雇ったから。」
ウィリー「いくらだった?」
「150ポンド。最初200って言われたけどそれは高すぎるって言ったら150になった。」
ウィリー「それはけっこういい値段だなあ。ラッキーじゃん。」
ここで、もう一人のとても重要な男、通称ソニーが通りかかって、席に合流した。彼はウィリーの雇い主で、すぐそこのユースホステルを経営しているそうだ。奥さんは日本人で、そのおかげで日本人パッカーも多く訪れているらしい。翌日以降のスケジュールを相談するときに、ここでツアーを頼むのも悪くないなと思い、明日のピラミッド観光の後で、その気になったら顔出すよと約束して、ユースへ帰って寝ました。エジプシャンカフェの会計は、ウィリーのおごりでした。(続く)

*デジカメをスタジオに忘れてきたので写真は明日以降にアップしまーす!